なぜ建設業のDX化は進まないのか?徹底分析

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建設業界は、日本経済の基盤を支える重要な役割を果たしています。しかし、長年にわたり業界全体が抱える課題は深刻で、特にDX(デジタルトランスフォーメーション)の導入が遅れている現状が問題視されています。DX化によって業務効率の向上やコスト削減が期待されていますが、その進行を妨げる要因には何があるのでしょうか。本記事では、建設業が直面している問題と、その解決策、さらに成功事例を通じて、DX化の重要性とその可能性を探っていきます。

建設業が抱える問題

建設業界は、日本経済の成長や社会基盤の設備において非常に重要な役割を果たしています。しかし、その重要性にもかかわらず、業界全体がいくつかの深刻な問題に直面しています。これらの問題は、業務効率化や生産性向上を図るためのDX化(デジタル化)の導入を妨げる要因ともなっています。具体的な問題は以下の通りです。

人手不足

2022年の年齢階層別の建設技能労働者数の割合は、60歳以上の高齢者(79.5万人、25.7%)、29歳以下の若者(37.2万人、12%)となっています。若い世代の労働者が不足しており、将来的な人手不足が深刻な課題です。(出典:国土交通省「建築BIMの意義と取組状況について」)

建設業界では長年、慢性的な人手不足が問題視されています。この背景には、高齢化が大きく影響しており、熟練労働者の退職が相次いでいます。さらに、若者の建設業離れも深刻です。建設業は他の業界に比べて労働条件が厳しいとされ、若年層が就職を避ける傾向があります。その結果、技術継承が難しくなり、現場での効率的な業務遂行が困難となっています。

労働環境の厳しさ

建設業は調査産業全体と比較して年間12日、90時間、製造業と比較して16日、68時間の長時間労働です。(出典:国土交通省「建築BIMの意義と取組状況について」)

建設業界では、長時間労働や過酷な作業環境が一般的です。例えば、夏の猛暑や冬の極寒の中での作業が求められることも多く、体力的な負担が大きい職場です。また、現場作業では危険な作業も多く、労働災害のリスクがつきまといます。これらの厳しい労働環境が原因で、離職率が高くなり、人材確保が難しい状況に陥っています。

複雑な作業工程

建設業の作業工程は非常に多岐にわたり複雑です。プロジェクトの進行には、多くの関係者が関与し、各工程が連携して進行しなければなりません。例えば、設計段階から施工、設備の取り付け、検査に至るまで、数多くのプロセスが存在します。それぞれの工程は、異なる業者や技術者が関わるため、管理や調整が難しいのが現状です。加えて、現場の状況が変わりやすく、柔軟な対応が求められるため、DX化による一元管理の導入が進みにくい理由にもなっています。

コスト削減のプレッシャー

建設業界では、予算内での工事が常に求められます。特に中小企業にとっては、限られた予算で高品質な施工を行うプレッシャーが大きく、コスト削減が不可欠な課題です。材料費の上昇や人件費の増加など、コストの変動も激しく、収益を確保するためには効率化が必要です。しかし、現場作業の効率化を進めるための投資(DX化のためのシステム導入など)がコスト圧力となり、導入を躊躇する企業が多いのも現状です。

なぜ建設業でDX化が進まないのか?

建設業が抱える課題を解決する手段として、DX(デジタルトランスフォーメーション)は非常に有望とされています。しかし、他の業界と比べてDX化の進行が遅れているという指摘も少なくありません。その背景には、建設業ならではの特有の要因が存在します。以下では、主な理由を詳しく解説します。

技術への抵抗感

建設業界では、長年にわたって培われた慣習や作業方法が強く根付いています。特に、熟練の職人や現場監督にとっては、長年続けてきたやり方が効率的であると信じられており、新しい技術やツールに対して強い抵抗感があります。この抵抗感は、特に年配の従業員や現場に長く関わる人々に見られ、ITツールやデジタルシステムに対して「使い方がわからない」「今までのやり方の方が信頼できる」といった意識が根強いのです。また、紙ベースの作業や手作業での管理が今でも広く行われているため、デジタル化に移行するための心構えが十分に整っていないケースが多いです。

コストの問題

DX化には、初期投資が不可欠です。デジタルツールやシステムを導入するためには、ソフトウェアの購入費用やサブスクリプション料金、ハードウェアの導入コストが発生します。特に中小企業にとっては、この初期費用が大きな負担と感じられることが多く、投資に対するリターンが見えにくいと判断されることがしばしばです。さらに、システム導入後の運用維持費用も考慮すると、DX化に対して慎重な姿勢を取る企業が多くなります。この結果、DX化がコスト削減や効率化につながると理解しつつも、初期費用の高さから導入に踏み切れないというジレンマが生じています。

現場の複雑さ

建設現場は、状況が常に変化するという特性を持っています。天候や地形、資材の供給状況、人員の調整など、日々異なる条件に対して柔軟に対応しなければならないため、画一的なデジタルツールでは全ての現場のニーズをカバーするのが難しいという現実があります。さらに、各プロジェクトごとに関わる企業や人材が異なるため、システムの統一が難しく、現場ごとに異なる対応が必要になることも、DX化を進める上での障害となっています。多様な現場に対応できる柔軟なツールが少ないことも、DX化の進展を遅らせる要因です。

スキル不足

デジタルツールやITシステムを導入しても、それを使いこなせるスキルを持つ従業員が十分に育っていないという問題もあります。特に現場作業員の中には、パソコンやスマートフォンをあまり使わない人も多く、新しい技術に対する不安感が大きいです。さらに、企業内での研修やトレーニングが不足しているケースが多く、ツールの導入はしたものの、現場で実際に使いこなせていないという状況が発生しています。このようなスキル不足は、DX化の大きな障壁となっており、特に中小企業ではその傾向が顕著です。

建設DXの解決策

建設業界においてDX化を成功させるためには、業界特有の課題を理解し、それに対応した適切な解決策を講じることが重要です。以下のポイントを押さえることで、スムーズなDX化が期待できます。各ステップで無理なく導入を進め、現場のニーズに合わせた取り組みが鍵となります。

段階的な導入

建設業界でのDX化は、すべてを一度にデジタル化するのではなく、段階的に進めることが重要です。最初は簡単なシステムやツールから導入し、従業員が新しい技術になれることが不可欠です。例えば、現場の作業管理アプリや勤怠管理システムから始めることで、抵抗感を軽減できます。段階的な導入により、現場の混乱を避け、スムーズにDX化を進められる効果が期待ができます。

コスト削減を実現するツール

初期投資がかかるものの、長期的なコスト削減に繋がるツールの選定が重要です。例えば、クラウド型プロジェクト管理システムを導入すれば、資料管理や現場とのコミュニケーションが効率化され、時間と経費の削減が可能です。DX化は、初期費用を上回るメリットを長期的に提供するため、コスト効率を考慮したツール選びが必要です。

教育とサポート

新しいデジタルツールを使いこなすためには、従業員への研修が不可欠です。ツール導入後も、サポート体制を整え、現場での問題に対処できるようにすることが求められます。特にITリテラシーが低い従業員には、使い方をしっかりと教育し、フォローアップを行うことで、スムーズにDX化を推進できます。サポート体制が強固であれば、トラブル発生時の迅速な解決が期待できます。

クラウドサービスの活用

クラウドサービスは、初期費用が低く、スケーラブルで柔軟なシステム運用が可能です。クラウド上のシステムは最新技術を常に活用できるため、導入後も継続的な更新が行われます。遠隔地でもアクセス可能なクラウドサービスは、現場とオフィス間の情報共有を効率化し、リアルタイムでの意思決定をサポートします。

建設DXの成功事例

実際にDX化に成功している中小企業の事例を挙げることで、他の企業にもDX化のメリットを具体的に理解してもらうことができます。以下では、実際の中小建設会社がどのようにDXを活用しているか、具体的な事例を紹介します。

現場管理システムの導入

東京都内に拠点を置く中小建設会社「A社」では、紙ベースの管理から脱却するために、クラウドベースの現場管理システムを導入しました。以前は現場での進捗管理や資材の管理がバラバラで、オフィスとのやり取りに時間がかかることが課題でした。しかし、このシステムの導入により、現場とオフィス間の情報共有がリアルタイムで行えるようになり、作業効率が大幅に向上しました。また、資料の一元管理が可能となり、ミスの削減にも繋がっています。

ドローンと3D技術の活用

大阪府の中小建設会社「B社」では、狭い作業現場での監視と測量に時間がかかっていました。これ対し、ドローンを使った現場監視と3Dモデリングを導入しました。ドローンによる空撮で現場の状況を把握し、3D技術を使って正確な測量が可能になったため、現場の進歩確認と設計にかかる時間を大幅に短縮しました。特に、3Dモデルを使った設計は、顧客への説明も視覚的に行えるようになり、信頼を得ることに成功しています。

コスト管理システムの活用

九州地方の中小建設会社「C社」では、利益率の低下に悩んでいました。特に、プロジェクトごとのコスト管理が煩雑で、どの部分でコストがかさんでいるかが把握できていなかったため、専用のコスト管理システムを導入しました。このシステムを活用することで、プロジェクトごとの収支をリアルタイムで確認できるようになり、問題のある部分を即座に改善することが可能となりました。結果として、C社は利益率を20%向上させ、業績の安定化に繋げています。

まとめ

建設業界のDX化は、業務の効率化やコスト削減、さらに競争力強化に不可欠な取り組みです。しかし、技術への抵抗感やコスト、複雑な現場対応、スキル不足といった課題がDX化を進める上での障害となっています。これらの問題に対し、段階的な導入やコスト削減を実現するツール、従業員の教育、クラウドサービスの活用といった解決策が有効です。成功事例からも分かるように、適切なアプローチを取れば、中小企業でもDX化を実現し、業務効率や利益率の向上に成功しています。今後、建設業界全体でDX化を進めることが、未来の競争力に繋がるでしょう。

プロフィール
監修
株式会社unlimited 代表取締役 橘 貴督

山口県下松市出身で、地元愛を大切にしながら、30年以上にわたるシステム開発とIT支援の経験を持つ。大手企業での実績として、新日鐵住金ステンレスや日本航空のERPプロジェクトなど、数々の大規模プロジェクトに従事。2011年にはタチバナアライブシステム株式会社を設立。その後、クラウドサービスの開発と運営にも力を注ぎ、地域の中小企業のDX推進をサポート。現在は「建設DXラボ」の監修者としても活動中。

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